なぜ同じ種類の同じ体長であっても、市場価値に10倍もの開きが生まれるのか。その答えは、海から引き揚げられた直後の「数分間」にある。
網でまとめて引き揚げる巻き網漁では、魚が互いに擦れ合い、暴れることで身にストレスがかかり、乳酸が溜まって味わいが損なわれやすい。これに対し、伝統的な一本釣りで丁寧に釣り上げられた個体はダメージが極めて少ない。さらに、船上で即座に脳死状態を作り出し、背骨の髄腔にワイヤーを通す「神経締め」を施すことで、死後硬直を遅らせ、旨味成分(イノシン酸)の生成を劇的に高めることができる。この職人技の精度が、魚の寿命だけでなく、皿の上での芸術的評価を決定づけるのだ。