記者を辞めた後の志茂田を待っていたのは、極貧と隣り合わせの荒波だった。生きるために選んだ仕事は、タクシー運転手、保険の営業マン、飲食店経営、資材置き場の作業員など、実に40種類以上に及んだ。昼夜を問わず働きながら、わずかな合間を縫って原稿用紙に向かい続けた。
とりわけタクシー運転手時代は、深夜の街で出会うさまざまな客の人生模様を肌で感じ取る貴重な時間だった。乗客のつぶやき、夜の歓楽街の熱気、裏社会の匂い。世間の底辺とも言える場所で目撃したリアルな人間模様こそが、彼の物語に圧倒的な生々しさと奥行きを与える原動力となったのだ。