現在、アサヒ飲料のロングセラーブランドとして日本中で愛されているカルピスだが、その誕生は大正8年(1919年)にまでさかのぼる。「初恋の味」というモダンなキャッチコピーとともに、昭和初期には都市部の中産階級を中心に文化的な飲料として定着していた。
だが、太平洋戦争の拡大とともに日本の生活環境は一変する。戦局が悪化すると、原材料である生乳や大量の砂糖は軍需物資として優先され、市民の口に入ることはなくなった。工場も軍用食糧の生産へ転換を余儀なくされ、街からその姿は完全に消え去った。清太たちが生きた昭和20年の夏において、カルピスが存在したという記憶そのものが、戦争によって破壊された近代日本の豊かな市民生活の残り香だったといえる。