スケート靴を強制的に脱がされたトーニャを待っていたのは、生きるための過酷なサバイバルでした。多額の負債と悪名を背負った彼女は、世間の好奇の目に晒されながらも、あらゆるエンターテインメントのリングに立ち続けました。
2002年、米FOXの特番『Celebrity Boxing』に出演し、クリントン大統領のスキャンダルで知られたポーラ・ジョーンズと対戦してTKO勝利を収めると、翌2003年にはプロボクサーへと正式に転向。女子プロボクシング界で通算6戦を行い、3勝(0KO)3敗の戦績を残しました。喘息の悪化や技術的限界によってボクシングキャリアは短期間で幕を閉じましたが、その後もプロレス興行への参戦やモンスタードラッグレースへの出場など、泥臭く稼ぐ姿はメディアの格好の餌食となりました。
しかし、2017年に公開された伝記映画『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル(原題: I, Tonya)』(クレイグ・ギレスピー監督、マーゴット・ロビー主演)が、世間の固定観念を根底から覆します。映画はブラックユーモアを交えつつ、トーニャ、元夫ギルーリー、母親ラヴォナの3者の食い違う証言をモキュメンタリー形式で克明に描写。冷酷な「氷上の悪女」という単一のレッテルを剥ぎ取り、貧困、ドメスティック・バイオレンス(DV)、そして階級差別の中で搾取され続けた複雑な一人の人間としての実像を提示しました。母親役を演じたアリソン・ジャネイがアカデミー助演女優賞を受賞するなど映画は批評的・興行的に大成功を収め、事件を知らない若い世代を中心に再評価のムーブメントが巻き起こりました。