文字は行政や法律のためだけに存在したわけではない。やがて人類は、自らの死への恐怖や友情、神々への問いかけを粘土の上に紡ぎ始める。その最高峰が、世界最古の文学とされるギルガメシュ叙事詩だ。ウルクの英雄王ギルガメシュが不老不死を求めて旅するこの物語は、旧約聖書の大洪水伝説と酷似するエピソードを含んでおり、19世紀末の解読時には世界中に大きな衝撃を与えた。
近年の現場における考古学の発掘調査では、都市の主要神殿周辺だけでなく、一般市民の住宅跡からもギルガメシュ叙事詩の断片が書かれた粘土板が見つかっている。これは文学が一部のエリート神官だけの所有物ではなく、教育や暗誦の教材として広く親しまれていた可能性を示唆している。人間とは何か、死とは何かという普遍的な問いが、5000年前の粘土の上で既に議論されていたのだ。