兵庫県西宮市甲陽園目神山町という地名を耳にして、即座にその情景を思い浮かべられる人はそう多くない。阪神間モダニズムの薫りを今に残す「西宮七園」の一角・甲陽園。その最奥部、六甲山地の急峻な南斜面に張り付くように広がるのがこの街だ。
山肌を削り平坦な宅地を造成する昭和の高度経済成長期スタイルの開発とは、最初から一線を画していた。ここにあるのは、自然の地形や露出した花崗岩の大岩をそのまま屋根や壁、庭の一部として組み込んだ野性味あふれる景観だ。標高200メートル前後の斜面からは、天候に恵まれればあべのハルカスから大阪湾までが一望できる。しかし一歩足を踏み入れれば、外部からの視線を遮る深い緑の砦。まさに「秘密のロケーション」と呼ばれるにふさわしい静謐が漂っている。