秒単位どころか、コンマ一秒の遅れが勝敗を分けるカヌースラローム。水門(ゲート)を接触せずにいかに最速で通過するかという極限の競技において、彼は長年にわたり国内トップに君臨してきた。ヨーロッパ強豪国の選手たちが幼少期から絶好の自然環境で育つ中、日本というハンデを背負いながら世界の表彰台を争い続けてきた歴史は伊達ではない。
「昔はただ水に勝とうとしていた。でも今は、水と会話する感覚に近いんです」。静かにそう語る眼光には、幾多の失敗と怪我を乗り越えてきた者だけが持つ静かな自信が宿る。パドル一筋で生きてきた男の軌跡は、そのまま日本のマイナースポーツの苦闘の歴史そのものでもあった。