作者の森川ジョージ氏が散りばめる復帰の伏線は、キャラクターの心理描写や小道具に色濃く反映されています。特に印象的なのは、鴨川会長が遺した教えと拳の重みです。
鴨川会長は「一歩の身体を壊してしまったのではないか」という自責の念を抱えていますが、一歩が手に入れた研ぎ澄まされた左ジャブは、皮肉にも会長が現役時代に得意とした「黄金の左」そのものです。一歩が会長から受け継いだ技術を世界の頂点で証明する物語構造は、鴨川会長の拳の継承というテーマにおいて不可欠なピースとなっています。
また、母・寛子さんの「怪我をしないで帰ってきてくれればいい」という無償の愛や、一歩を想うあまりボクシングから遠ざけようとしてきた間柴久美の心情変化も重要な鍵です。周囲の理解と後押しが整った瞬間、一歩の足を止めるストッパーは完全に外れることになります。