日本の夏を彩る蝉たちの合唱は、無秩序に鳴いているわけではない。光の強さ(照度)と気温という厳密なルールに基づき、時間帯ごとに見事な「タイムシェアリング(鳴き分け)」を行っている。早朝の爽やかな時間にはクマゼミが威勢よく口火を切り、太陽が昇りきった昼下がりにはアブラゼミやミンミンゼミが灼熱の空気を震わせる。
ヒグラシがスポットライトを浴びるのは、日の出前のわずかな時間と、日没直前の薄明(はくめい)の時間帯だ。照度が数百ルクスまで落ち込む薄暗い環境が彼らにとっての合図となる。他種の大音量に邪魔されることなく、また天敵である鳥に見つかりにくい時間帯を狙って求愛の歌を響かせる知恵であり、過酷な自然界を生き抜くための精妙な進化の結実といえる。