この前代未聞の映像化を支えたキーマンが、カリフォルニア工科大学の名誉教授であり、後にノーベル物理学賞を受賞するキップ・ソーンだ。クリストファー・ノーラン監督は、徹底的なリアル志向を追求することで知られる。二人の出会いが、映画業界の歴史を大きく塗り替えることになった。
ソーン教授が提供した大量の物理方程式。それをVFX制作チーム「Double Negative(現DNEG)」のレンダリングエンジンへと直接流し込むという、前代未聞の手法が採られた。制作現場では、光子の軌道を計算するために膨大なコードが書き換えられたという。巨大天体の自転に伴う歪みや、アクレッション・ディスク(吸積円盤)のドップラー効果による明暗の差。完成した映像を見たソーン教授自身が、「誰も見たことがない物理現象の真実がそこにあった」と目を見張ったという逸話は有名だ。VFX撮影秘話として語り継がれるこの背景には、科学とアートが完璧に握手した瞬間が存在していた。