本作の最大の語り草であり、観客の意見が真っ二つに分かれるのが、あの怒涛のラスト9分間だ。舞台上で罠にはめられ、失意のうちに一度は袖に下がった主人公アンドリュー。しかし、彼は再びステージへと引き返し、自らの意思でドラムセットの前に座る。指揮者フレッチャーの合図を無視し、凄まじいソロ演奏を叩きつけ始めるのだ。
この「キャラバン」の過酷な演奏シーンは、単なる復讐劇でも和解のドラマでもない。二人の狂気が共鳴し、音楽という超常の領域で悪魔的契約を交わした瞬間と言える。アンドリューは人間性を捨てて怪物となり、フレッチャーは己が追い求めた「真の天才」の誕生を目撃して笑みを浮かべる。それは芸術的勝利であると同時に、一人の青年の心が完全に破壊された瞬間でもあった。