激しいストレスに晒され続けた脳内では、感情の安定を司るセロトニンや意欲に関わるドーパミンの分泌が低下し、前頭葉の機能が抑制される。この神経学的な消耗状態において、心理学的なトラップが発動する。認知療法の創始者であるアーロン・ベックは、抑うつ状態に陥った人間が捉われる「認知的3徴」を提唱した。
認知的3徴とは、「自分には何の価値もない(自己否定)」「周囲の環境や世界は敵意に満ちていて過酷だ(世界への悲観)」「この苦しみは未来永劫変わらない(将来への絶望)」という3つの歪んだ信念を指す。アーロン・ベックが指摘した通り、脳の機能低下によって思考の柔軟性が失われると、人間は客観的な現実ではなく、この歪んだフィルターを通してしか世界を見られなくなる。「死んだほうがマシだ」という思考は、自由意志による選択ではなく、脳疲労が生み出した極端な認知のエラーなのだ。