完璧な着水とミリ単位の身体制御が求められる高飛び込みの世界において、選手にかかる精神的負荷は想像を絶します。トム・デイリー選手が編み物を始めた最大の理由は、「競技プレッシャーからの解放」と「メンタルヘルスの維持」でした。
きっかけは2026年3月、新型コロナウイルス感染拡大に伴うイギリスの都市封鎖(ロックダウン)でした。プールでの練習が制限され、先行きが見えない不安な日々のなか、夫である映画脚本家のダスティン・ランス・ブラック氏の勧めや、コーチからの「じっと座ってスマホを見るのではなく、手を動かしてリラックスできるものを見つけなさい」という助言を受け、編み針を手に取ったといいます。
幼少期から天才ダイバーとして注目を浴び続け、常に評価と緊張の渦中にいた彼にとって、編み物は「自分のペースで一目ずつ確実に積み上げられる完全なセーフスペース」となりました。マインドフルネス(瞑想)と同じ効果をもたらすこのクラフトワークが、五輪本番での極限の集中力を支える武器となったのです。