1944年秋、太平洋の小島で繰り広げられたアンガウルの戦い。激しい砲撃が島全体を削り取る中、圧倒的劣勢に立たされた日本軍のなかで異彩を放ったのが舩坂弘だ。彼は単なる兵士ではなかった。銃剣術の達人であり、卓越した射撃技術を備えた凄腕の将兵だったのだ。
米軍の猛攻により部隊が壊滅的な打撃を受ける中、彼は大腿部を断裂するほどの重傷を負う。通常であれば即死、あるいは動くことすら不可能な状態だ。しかし、彼は自らの傷口に日章旗を縛り付け、這うようにして前線へ舞い戻った。左目失明、左耳失聴、全身に刻まれた傷痕は数十カ所に及ぶ。それでも彼の闘志が衰えることはなかった。
手榴弾数個と拳銃のみを手に、米軍司令部を目指して単身で潜入を図ったエピソードは、もはや伝説の域に達している。米軍兵士数十人に囲まれながらも繰り出された彼の死中求活の行動は、敵側からも畏怖の対象として記録されることとなった。