この騒動で最も厳しい批判の矢に晒されたのは、佐村河内氏本人だけではない。彼を「現代のベートーベン」として全国に売り込んだ大手メディアの責任である。特に日本放送協会(NHK)は、ゴールデンタイムのドキュメンタリー番組や特別番組を通じ、彼がいかに絶望的な難聴と闘いながら大曲を紡ぎ出しているかを感動的に描き出した。
メディア報道・ジャーナリズムの最大の過失は、検証取材の欠如にあった。障害を物語のスパイスとして消費し、ろくに楽譜の自筆チェックや聴力の客観的検証を行わずに「感動の物語」を捏造してしまったこと。結果として現代クラシック音楽界は未曽有の混乱に陥り、日本音楽著作権協会(JASRAC)は著作権使用料の分配保留や登録取り消しという前代未聞の対応を余儀なくされた。メディアが作り出した虚妄の神話が、クラシック音楽の信用そのものを傷つけた罪は極めて重い。