映像と響き合いながら物語の深層を語りかけるのが、作曲家・久石譲による音楽である。主題歌の親しみやすいフレーズが全国の幼稚園や街中で口ずさまれた一方で、劇中歌や劇伴オーケストレーションには、北欧神話やクラシック音楽の重厚なオマージュが散りばめられている。
ポニョの本名が「ブリュンヒルド」であることは、リヒャルト・ワーグナーのオペラ『ニベルングの指環』に登場するワルキューレ(戦死した勇者の魂を彼岸へ導く女神)を強く連想させる。ポニョが大波に乗って宗介のもとへ駆け寄るあの壮大なスペクタクルシーンで流れる音楽は、まさに「ワルキューレの騎行」を彷彿とさせる構造を持っているのだ。久石譲が作り上げた旋律は、可愛らしさの裏に壮大な神聖さと死の気配を潜ませており、聴く者に知らず知らずのうちに異界への旅立ちを感じさせる役割を果たしている。