実務上、すべての人身事故で遺族へ厳格な損害賠償請求が行われているわけではありません。鉄道会社側が意図的に損害賠償請求を見送る、あるいは形だけの通知にとどめるケースも存在します。
請求が見送られる最大の理由は、回収不能リスクと回収コストの兼ね合いです。当人にめぼしい遺産がなく、遺族全員が速やかに相続放棄を行うことが明白な場合、鉄道会社側が弁護士費用や調査費用をかけて請求手続きを進めても、費用倒れに終わる可能性が高いためです。
また、自死遺族に対する道義的配慮や社会的評価への影響も考慮されます。過酷な取り立てを行っているという風評被害を避けつつ、遺族の生活状況を鑑みて請求を留保・減免する柔軟な運用が水面下で取られている実態があります。さらに近年では、ホームドアの整備拡大などハード面での防止策が進んだことで、事故発生時の過失割合をめぐる議論もより多角化しています。