一方で、科学界には根強い慎重論と根本的な懐疑論が存在する。東京大学名誉教授のロバート・ゲラー氏をはじめとする研究者たちは、「決定論的な短期地震予知は原理的に不可能である」と一貫して主張してきた。
ゲラー氏らの論拠は明快だ。地球の地殻は極めて不均質であり、カオス的な非線形力学系の下にある。小さな破壊が巨大地震へと成長するか途中で止まるかは、破壊が始まってみるまで物理的に決定できないという見解である。この立場から見れば、「事前に警報を出して住民を避難させる」という古典的な予知モデルへの過度な予算配分は、かえって社会の油断を招きかねない。
この厳しい学術的批判は、日本の地震研究を「直前予知」の幻想から「確率評価と即時減災」へと方向転換させる決定的な契機となった。科学の限界を真摯に認めることからしか、本物の防災戦略は生まれない。