フィリピン大統領訪日・皇居拝謁が決定した当時、関係者の間には言葉にできない緊張が走っていた。北京の式典でガムを噛みながら演台に立ち、アメリカ大統領に対しても容赦ない罵声を浴びせてきたロドリゴ・ドゥテルテ氏である。皇居での拝謁においても「何かやらかすのではないか」という不安が囁かれていた。
だが、実際に御所の御車寄に現れた彼の姿は、関係者の予想を鮮やかに裏切るものだった。完璧にボタンを留めたスーツ、一切の無駄を削ぎ落とした静かな佇まい。後日明かされた未公開のエピソードによれば、控室で側近が緊張の面持ちで見守る中、彼は「日本の天皇はアジアの精神的柱だ。失礼は絶対に許されない」とつぶやいたという。
会談中、非公式に交わされた会話のなかで、彼はかつて太平洋戦争で傷ついたフィリピン国民に対する日本の戦後の誠意ある支援と皇室の存在感に深く感謝の意を示した。プロトコル(外交礼法)を破るどころか、誰よりも深く首を垂れたその姿勢は、メディアや外交関係者を驚愕させるのに十分だった。