濱口竜介監督による『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞国際長編映画賞を獲得し、カンヌ国際映画祭をはじめとする国際舞台で激賞を浴びた際、多くの批評家が口を揃えて称えたのが冒頭で物語の決定的な基軸を担った家福音の存在感だった。ベッドの中で夫に物語を語り聞かせるその声のトーン、妖艶さと冷徹さが同居する独特の空気感。観客は彼女が放つミステリアスな熱量に一瞬で捕らわれた。
この役柄が持つ複雑怪奇な陰影を、彼女は一切の過剰な演技を排して具現化した。愛と裏切り、優しさと残酷さという相反する要素を、声の抑揚と微細な身振りのみで成立させる。その緻密なアプローチこそが、世界各国の映画祭で「映画の魂を決定づけた」と評された理由に他ならない。