タイトルに冠された「燦燦(さんさん)」という言葉の語源を紐解くと、中国の古典詩に由来する漢語表現に行き着きます。漢字の「燦」は火が鮮やかに燃え立つ様子を象徴しており、畳語(重ね言葉)である「燦燦」は太陽の光が余すところなく燦然と降り注ぎ、万物を明るく照らし出す情景を意味します。日常語としては「陽光が燦燦と降り注ぐ」といった表現で親しまれてきました。
しかし、美空ひばりが歌う『愛燦燦』の歌詞の意味を丹念に読み解くと、小椋佳が仕掛けた極めて巧緻な言葉の対比が浮かび上がります。楽曲の冒頭で描かれるのは、光ではなく冷たい雨の景色です。
「雨 潸潸と この身に落ちて」
ここで使われる「潸潸(さんさん)」とは、雨が絶え間なく降り続く様子や、止めどなく涙を流して泣き濡れる姿を指す言葉です。音としては同じ「さんさん」でありながら、漢字と情景は「光(燦燦)」と「涙・雨(潸潸)」という正反対の位相に置かれています。続く2番では「風 散散と」と吹き荒れる風に身を晒し、3番に至ってようやく「愛 燦燦と」と惜しみない慈愛の光が降り注ぎます。
人生における理不尽な悲哀や痛哭を「雨」として受け止め、避けられない挫折を「風」としてやり過ごした先にしか、本物の「愛の光」は差し込まない――。美空ひばりという稀代の歌い手が辿った栄光と孤絶の軌跡が、この畳語のグラデーションに鮮やかに凝縮されているのです。