本作最大の謎として議論され続けるのが、主人公ソフィーにかけられた呪いの変遷です。帽子屋の長女として自己主張を押し殺し、自らを「美しくない」と諦めていた18歳のソフィーは、荒地の魔女によって90歳の老婆へと姿を変えられます。しかし劇中を注視すると、彼女の外見は90歳の老婆から時折50代、あるいは本来の少女の姿へと激しく揺れ動いています。
制作当時の公式インタビューやスタジオジブリ関連書籍において、宮崎駿監督は「人間は心の持ちようによって、一瞬で老婆にも少女にもなる」という趣旨を明かしています。つまり、荒地の魔女がかけたのは単なる物理的な老化の魔法ではなく、「本人の無意識の自己イメージを鏡のように具現化する呪い」でした。
ソフィーがハウルを守るためにサリマンへ毅然と立ち向かう場面や、眠りの中で無防備になっている時、彼女は本来の若々しい姿に戻ります。逆に、自信を失い自己否定に陥ると瞬時に深い皺が刻まれた老婆に戻ってしまうのです。ラストシーンでハウルの心臓を取り戻し、自分自身とハウルをありのまま愛することを受け入れた時、呪いは完全に効力を失いました。髪の色だけが「星の光に染まった銀髪」として残ったのは、老いを経験したことで得た精神的な成熟と知恵の証言といえます。