『生きたメキシコ』は、単一の劇物語ではなく、複数の独立したノベラ(短編)とプロローグ、エピローグで構成される重層的な交響詩的オムニバス形式として構想されました。エイゼンシュテインが遺したメモや絵コンテから明らかになっている本来の構成とあらすじは以下の通りです。
■ プロローグ(古代の静寂)
ユカタン半島の古代マヤ遺跡(チチェン・イッツァ)を背景に、石彫の神々と現代に生きる先住民族の横顔が重なり合います。永遠の時間を象徴する静謐な映像美が観客を神話の世界へと誘います。
■ サンドゥンガ(南国の楽園)
テワンテペク地峡の熱帯地方を舞台に、母系社会の伝統や女性たちの優雅な儀礼、婚礼に至る男女の無垢な愛と自然の豊かさを、穏やかなテンポと叙情的な映像で描き出します。
■ マゲイ(過酷な大地と反乱)
竜舌蘭(マゲイ)が生い茂る中央高地のプランテーション(大農園)。結婚を控えた農民セバスチャンは、残虐な領主によって婚約者を凌辱されます。怒りに燃える農民たちは反乱を起こすものの鎮圧され、砂深くに生き埋めにされた首を騎馬隊に踏み躙られるという凄惨な公開処刑を迎えます。階級闘争の過酷さを強烈なコントラストで抉り出す本作の中核パートです。
■ フィエスタ(祭りと信仰)
闘牛の熱狂とカトリック信仰の儀式が交差するカトリック的メキシコの姿。死と隣り合わせのスペクタクルが描かれます。
■ ソルダデラ(革命の女性たち ※未撮影部分多数)
メキシコ革命において、兵士とともに戦場を行進し、物資を運び戦った女性たち(ソルダデラス)の勇姿を描くはずだったクライマックス。資金枯渇により本格的な撮影前に中断を余儀なくされました。
■ エピローグ(死者の日)
メキシコ独特の伝統行事「死者の日」を捉えた圧巻の結末。ガイコツの仮面を被った人々が死を笑い飛ばし、仮面を脱いだ子どもたちの笑顔とともに、死を克服して未来へ前進するメキシコ人民の不屈の生を高らかに祝福します。