映画『月』の実話モデルとなったのは、2016年7月26日に神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で発生した殺傷事件です。元職員の男が深夜に施設へ侵入し、入所者19人を殺害、職員を含む26人に重軽傷を負わせたこの事件は、日本社会に底知れない衝撃と深いトラウマを植え付けました。
この未曾有の惨劇に強い衝撃を受け、執念をもってペンを執ったのが作家・辺見庸氏です。自身も脳出血による半身麻痺を抱え、当事者に近い立場に身を置いていた辺見氏は、事件の背景にある優生思想や社会の無関心を徹底的に追及。2017年に発表された原作小説『月』は、事件を矮小化せず、人間の深淵に潜む「絶対的な闇」を抉り出した文学的怪作として知られています。
本作の企画を立ち上げたのは、『新聞記者』などで知られ、惜しまれつつ世を去った名プロデューサー・河村光庸氏でした。「この事件から目を背けてはならない」という遺志を受け継いだ石井裕也監督は、生半可な覚悟では成立しないこの難題に対し、真正面からカメラを向けることを決断しました。