警察本部の記者クラブで配布される「発生速報」のペラ紙一枚。そこには発生日時、場所、当事者の年齢や職業が極めて簡潔に記されているに過ぎない。しかし、行間には膨大な情報が伏せられている。関係者への独自取材を進めると、初動捜査の段階で捜査員たちが注視していたのは、現場に残されたわずかなタイヤ痕の角度や、防犯カメラに映り込んだ不審車両の逃走経路だった。
栃木県警察本部の刑事部幹部は、深夜の捜査本部でタバコを揉み消しながら小さく漏らした。「表に出ていない防犯カメラの映像には、発表資料の数倍の物語が映っている」。深夜帯における特定の県道や山間ルートでは、追跡を逃れようとする不審車の動きが複数確認されていたという。リアルタイムで交錯する無線通信と、現場指揮官の鋭い怒号。公式発表というフィルターを通す前の現場は、まさに時間との戦いであり、一刻を争う包囲網が水面下で敷かれていたのだ。地域住民の安全を守るための緊急警戒態勢は、私たちが眠りについている間も限界ギリギリで維持されている。