「髪をほどいた 君の仕草が」というあまりにも有名な歌い出し。この一フレーズだけで、一瞬にしてプライベートな二人の空間へと引きずり込まれる。作詞を手掛けた多羅尾伴内(大瀧のペンネーム)と言葉の魔術師たちが紡ぎ出したフレーズは、極限まで無駄が削ぎ落とされている。具体的でありながら、聴き手それぞれの記憶の余白に入り込む絶妙な距離感だ。
さらに、メロディの構造にも秘密がある。マイナーコードとメジャーコードを行き来する切ないコード進行は、人間の脳に「懐かしさ」と「切なさ」を同時に呼び起こす。大瀧が愛した1960年代のアメリカン・ポップスの黄金比率が、この日本のラブソングの中に完璧な形で移植されているのだ。