喜多村の手腕が広く演劇ファンを唸らせた象徴的な仕事が、横溝正史の傑作ミステリーを原作とした舞台化シリーズだ。とりわけ舞台『犬神家の一族』や舞台『八つ墓村』で見せた名探偵・金田一耕助役は、観客に強烈なインパクトを残した。
ボサボサ頭に羽織袴というトレードマークの奥にある、人間の業や哀しみを鋭く見抜く洞察力。喜多村が演じる金田一には、単なる謎解き役にとどまらない深い憂愁が漂っていた。新派劇の持ち味である「人間ドラマの陰影」をミステリーの構造に見事に落とし込み、原作ファンをも唸らせる立体的な舞台空間を現出させたのだ。横溝ワールド特有のおどろおどろしさと美しさを両立させた怪演は、劇団のレパートリーに新たな地平を切り拓いた。