山寺宏一という役者の真骨頂は、その圧倒的な役柄の幅広さにある。『それいけ!アンパンマン』の作品内だけでも、犬の鳴き声だけで感情を表現する名犬チーズ、愛嬌たっぷりのカバお、江戸っ子気質のかまめしどんなど、全く異なるベクトルの声を同一人物が演じ分けているのだから驚きだ。
一回の収録の中で複数のキャラクターが会話するシーンすら日常茶飯事である。山寺はいかにして瞬時に音色と呼吸を切り替えているのか。彼が語る極意は「声を変えるのではなく、そのキャラクターの思考回路と身体性に成り切ること」だという。呼吸の浅さ、滑舌のクセ、体重のかかり方までを頭の中で計算し尽くし、マイクの前で一瞬にして人格を憑依させる。この職人技こそが、日本の声優技術の最高峰たる所以である。