圧倒的な武力と絶対的な再生能力を誇る鬼舞辻無惨に対し、珠世には刀を振るう腕力も異次元の血鬼術も存在しない。彼女が武器として選んだのは、膨大な時間と知識を費やして研鑽を重ねた「薬学」の叡智であった。柱たちのような派手な剣技を持たぬ医師が、いかにして絶対者に一矢報いるのか。その着想こそが物語の白眉である。
自らの身体を実験台にし、鬼の細胞を研究し続けた珠世の執念は凄まじい。鬼を人に戻す薬の開発をはじめ、無惨の細胞の再生を著しく阻害する複合毒の生成に至るまで、彼女の緻密な計算は数世紀にわたって張り巡らされた。腕力ではなく知恵と執念で支配者に挑む姿は、過酷なダークファンタジーの世界観に異彩を放っている。