『上を向いて歩こう』が世に放たれたのは1961年(昭和36年)のことでした。NHKの人気バラエティ番組『夢であいましょう』の「今月のうた」コーナーから生まれた本作は、放送作家・作詞家の永六輔氏と、天才ジャズピアニスト・作曲家の中村八大氏による伝説的な黄金タッグ「六八コンビ」によって生み出されました。
当時、ジャズやロカビリーといったアメリカ音楽の熱波が押し寄せていた日本の音楽界において、中村八大氏が目指したのは「日本人にしか作れない、世界基準のポップス」でした。モダンジャズの洗練されたコードワークを取り入れつつ、日本の伝統的なヨナ抜き音階(ペンタトニック・スケール)を絶妙に融合させたメロディラインは、まさに時代を切り拓く革新的な試みだったのです。
この挑戦的な楽曲の歌唱を託されたのが、当時20歳手前だった坂本九さんでした。彼の持つ類まれなリズム感と独特のしゃくり上げるような歌唱法(ヒーカップ唱法)が、哀愁漂うメロディに弾むような躍動感を与え、日本中を瞬く間に席巻する大ヒットへと結実しました。