老朽化という物理的な要因と並び、議論を呼んできたのが二宮金次郎像の撤去理由にまつわる教育的な価値観の変化です。1990年代後半から2000年代にかけて、保護者や教育関係者から「子どもが真似をして歩きながら本を読んだら危ない」「交通安全の指導と矛盾する」といった指摘が寄せられるようになりました。
さらにスマートフォンの普及期には、画面を見ながら移動する行為への批判が高まり、歩きスマホと二宮金次郎像の類似性を問題視する声が一部で取り沙汰されました。学校現場が児童に対して「歩行中の前方不注意は危険」と指導するなかで、校門脇で堂々と歩き読書をする像の存在が、教育上のジレンマを生む形となったのです。
もっとも、多くの教育関係者は「金次郎像は寸暇を惜しんで学ぶ姿勢を象徴したものであり、実際に歩行中の読書を推奨していたわけではない」と理解を示しています。しかし、地域住民や保護者からのクレーム対応、そして何よりも児童の安全確保という観点が重なった結果、改修のタイミングで像をあえて再設置しない選択が定着していきました。