般若心経の中で最も有名なフレーズといえば「色即是空 空即是色(しきそくぜくう くうそくぜしき)」です。教科書や解説本では「目に見える形あるもの(色)には実体がなく(空)、実体がないからこそ様々な形を取りうる」といった難解な哲学として説明されがちですが、このロック訳では「目に見えるものに実体なんかねぇ、全部お前の心が作り出した幻だ」とバッサリ切り捨てています。
実はこれこそが、大乗仏教が説く「空」の思想の神髄です。私たちが日々悩まされている「将来への不安」「他人の評価」「失うことの恐怖」は、すべて『ある』と思い込んでいる執着から生まれています。それらは固定された実体ではなく、移ろいゆく一時的な現象にすぎません。
「何かにしがみつく必要なんてどこにもない」というパンクなメッセージは、釈迦が本来伝えたかった「執着を手放せば、あらゆる苦痛から自由になれる」という教えと完全に一致しています。くだけたスラングを採用しながらも、思想の根底にある論理構成を一切損なっていない点が、この超訳の驚くべき完成度を示しています。