現在私たちが性別を表すために使っている「♂」と「♀」は、もともと生物学のために作られた図形ではありません。その源流は、古代ヘレニズム時代の占星術および天文学における惑星記号にあります。
「♂」は火星(マーズ / Mars)を象徴する記号です。ローマ神話における軍神マルス(ギリシャ神話のアレース)が携える「槍と盾」を図案化したものとされています。赤く輝く火星の好戦的なイメージが、戦いを司る男神と結びつき、やがて男性性や力強さの象徴として定着していきました。
対する「♀」は金星(ヴィーナス / Venus)を象徴する記号です。愛と美の女神ヴィーナス(ギリシャ神話のアフロディーテ)が自らの姿を映す「手鏡(柄付きの鏡)」を図案化したものが起源とされています。優美さや生命の誕生を象徴する金星の光が、女神の持ち物を通じて女性性のシンボルとなりました。
古代ギリシャ・ローマでは、これらの記号は天体だけでなく錬金術における金属(火星=鉄、金星=銅)を表すシンボルとしても広く流通していました。数千年にわたる象徴体系の変遷を経て、現在の形へと洗練されていったのです。