平成のテレビ界において、輪島功一氏は同じく元世界王者のガッツ石松氏とともに「愛されるおとぼけタレント」の代名詞として親しまれました。珍回答を連発し、予測不能なリアクションでスタジオを爆笑の渦に巻き込む姿から、若い世代には「コミカルなおじさん」として記憶されているケースも少なくありません。
しかし、ジャーナリズムの視点で当時の実態を掘り下げると、この「バラエティ的キャラクター」が彼の本質を覆い隠してしまったという側面が浮かび上がります。
リング上の輪島氏は、決して直情的なファイターではありませんでした。むしろ、自らの体力・リーチの不利を徹底的に自覚し、心理戦と変則的な動きで相手のリズムを狂わせる計算し尽くされた戦略家でした。代名詞となった「輪島功一 カエル跳び」は、単なる奇策やパフォーマンスではありません。膝を深く折り曲げて相手の視界から一瞬完全に消え、相手が目線を落とした刹那に下から爆発的な力でフックやアッパーを突き上げる、力学と視覚心理を巧みに突いた精密な高等技術だったのです。
盟友であるガッツ石松氏は、生前の対談や特番の場で輪島氏についてこう述べています。
「みんな輪島さんを天然だと思っているけれど、リングの上でのあの人は誰よりも冷徹で、頭が切れる策士だった。相手が嫌がることを瞬時に察知して徹底してやり抜く。あんなに恐ろしいボクサーは他にいない」
バラエティ番組で見せていた天真爛漫な姿は、血みどろの激闘を生き抜いた男が後天的に身につけた、過剰な自意識を持たない人間的包容力の表れでした。「面白おかしい元王者」というネット上の単純化された記号は、彼の真の凄みを見誤らせる最大の盲点といえます。