すち子の人気の理由は、単にギャグが面白いという理由だけでは説明がつきません。そこには、日本社会における人間関係の変容と、人々の深層心理を突いた構造的なアプローチが存在します。
すち子の装いは、緑のジャージ風ワンピースに派手なエプロン、渦巻き状のお団子ヘア。この造形は、昭和から平成にかけて関西の町中に実在した「世話焼きで厚かましい近所のおばちゃん」の記号を極大化したものです。他人のプライベートに過剰に首を突っ込み、平気で毒を吐く一方で、困っている人間を放っておけない情の厚さを見せる。この二面性が、観客の心に強烈な安心感をもたらします。
心理学において、過度な人間関係の希薄化や過敏なコンプライアンス意識が叫ばれる環境下では、誰もが「無遠慮だが悪意のない他者」との接触に密かな渇望を抱くと言われます。すち子は、観客が日常で張り巡らせている心理的バウンダリー(境界線)を一瞬で破壊し、親近感の海へと引きずり込みます。舞台から客席へ容赦なく放り投げられる「すち子のねぶり飴」は、その境界線を越えるための象徴的なコミュニケーションツールです。
観客は飴を求め、声の限りすち子の名を呼びます。その瞬間、見る側と見せる側の垣根は消え去り、「全員がひとつの家族になる」という劇場体験が完成します。公式ストアで飛ぶように売れるすち子グッズの数々も、単なるファンアイテムではなく、その温かい体験を持ち帰りたいという読者・観客の心理が反映された結果と言えます。