およそ800年にもわたりイベリア半島に君臨したムーア人たちの血と文化は、彼らが追放された後、完全に消え去ってしまったのでしょうか。現代の科学と歴史研究は、彼らの残した確固たる痕跡を証明しています。
集団遺伝学のDNA解析調査によると、現代のスペイン人やポルトガル人の遺伝子プールには、明確な北アフリカ系(ベルベル人・ムーア人由来)のDNAマーカーが平均して数パーセントから、地域によっては10%程度保持されていることが判明しています。完全な追放令が出されたものの、一部は現地に同化し、密かに血脈を受け継いできたのです。
言語面でもその影響は計り知れません。現代スペイン語にはアラビア語由来の単語が約4,000語以上存在すると言われています。
- アルカサル(Alcázar):城・宮殿(アラビア語の「al-qaṣr」に由来)
- アセイトゥーナ(Aceituna):オリーブ(「az-zaytūn」に由来)
- アルカルデ(Alcalde):市長・裁判官(「al-qāḍī」に由来)
- オハラ(Ojalá):神が望めば・どうか〜でありますように(「wa-shāʼ Allāh」に由来)
さらに、フラメンコの哀愁を帯びた旋律やコブシ回し、南スペインの白壁の街並み、豊かな灌漑農業システムに至るまで、ムーア人がもたらした技術と感性は、現代のイベリア文化の根幹として今なお息づいています。