原作第3巻『あきない世傳 金と銀 (三) 奔流篇』は、まさにタイトル通り怒涛の勢いで五十鈴屋とお幸の運命が激変する屈指の名編です。前巻で急逝した放蕩者の五代目・徳兵衛に代わり、卓越した商才を持つ弟の惣次が七代目を襲名。店の立て直しを図る中で、幸は周囲の思惑と家の存続のために惣次の妻(後妻)となる道を選びます。
この第3巻で描かれる最大の危機は、惣次が進める強引な合理主義と、幸が抱く「買うての幸い、売っての幸せ」という商いの原点との決定的な亀裂です。惣次は大坂の商慣習を逆手に取り、莫大な利益を生む一方で取引先や職人を容赦なく切り捨てる冷徹な手法を推し進めました。五十鈴屋の身代は一時的に急拡大するものの、店内の空気は軋み、古参の奉公人や取引先からの信望は音を立てて崩れていきます。
その中で幸が下した決断――それは、夫であり主客でもある惣次の商法に盲従することではなく、自らの信じる商道を守るために真っ向から対峙することでした。富を独占しようとする惣次と、関わる人々すべての幸福を願う幸。夫婦でありながら商売の哲理において決して交わらない二人の対立は、やがて五十鈴屋の屋台骨を揺るがす未曾有の結末へと突き進んでいきます。