京都の五花街(祇園甲部・宮川町・先斗町・上七軒・祇園東)にある「お茶屋」が、なぜ今も一見の客を断るのか。その背景には、単なる排他性ではなく、数百年にわたり培われてきた独自の信用システムと顧客保護の思想が存在します。
お茶屋遊びの最大の特徴は、その場での現金のやり取りを行わない「売掛(ツケ払い)」制度にあります。客が飲食した料理屋への支払い、芸妓や舞妓を呼ぶ「花代(はなだい)」、さらには二次会への移動費用に至るまで、すべてお茶屋が一時的に立て替えます。月末や後日に一括して請求書が届く仕組みであるため、お茶屋の女将と客との間に絶対的な相互信頼がなければ成立しません。
同時に、顧客のプライバシーを徹底して守る「守秘義務」の観点も関係しています。政財界の要人や文化人が日常を離れて安心して過ごせる空間を維持するため、身元の定かでない人物を安易に入れないという防犯・防護の役割を果たしているのです。この高い敷居こそが、花街の高い品格と芸事の質を現在まで維持してきた根幹と言えます。