このエピソードが今なお「伝説」と称される理由は、単に犯人の残虐さや心理描写の恐ろしさにあるわけではない。物語の根底に流れるのは、救われなかった魂の叫びと、目撃者たる主人公・明日真映児(明日真エイジ)が直面する底知れぬ切なさだ。
物体や場所に残された「念(残留思念)」を読み取るサイコメトリー能力を持つエイジが触れたのは、凄惨な現場の記憶だけではなかった。犯行現場に残された血文字のようなメッセージ、あるいは歪んだ殺意の裏に隠された、あまりにも儚く幼い叫び。「ボクを殺さないで」という言葉は、誰かを殺害するための宣戦布告ではなく、他ならぬ自分自身の消えゆく自我を守るための必死の命乞いだったのだ。この叙述トリックとも言える心理的企みが、読者の胸を痛烈に締め付けた。