「祖父の舞台を袖から見つめて育った」という原体験は、彼の表現の根底に深く根を下ろしている。片岡仁左衛門が醸し出す気品と色気、そして極限まで研ぎ澄まされた演技の「型」。それを幼少期から眼球に焼き付けてきた経験は、他の誰にも真似できない強力な武器だ。
しかし、彼は単なる模倣者ではない。近年みせる役作りには、自身の世代特有のリアルな感情や時代感覚が見事に融合している。型を守る「守」の段階から、自らの表現を破る「破」の領域へ。古典演目で見せる凛とした立ち姿の奥には、伝統を次世代へ引き継ぐという覚悟と、自らの手で新たな息吹を吹き込もうとする強靭な野心が透けて見える。