『古事記』を初めて読む人が真っ先に驚くのは、神々の行動が決して聖人君子のような清廉潔白さばかりではない点です。冒頭のイザナギとイザナミによる国産みの物語からして、凄絶なドラマが展開します。国を生み終えた後に命を落とした妻・イザナミを追って黄泉の国へと向かったイザナギですが、そこで変わり果てた妻の腐乱死体を見て逃走。逆上したイザナミが追手を放ち、最後には「毎日1000人の人間を殺す」「ならば毎日1500の産屋を建てよう」と言い合って永遠の離別に至るくだりは、まさに愛が憎悪へと反転するサスペンスホラーそのものです。
続くアマテラスとスサノオの神話でも、家族間の激しい衝突が描かれます。弟であるスサノオの高天原での大暴れに怒りと恐怖を覚えたアマテラスが「天岩戸(あまのいわと)」に閉じこもり、世界が暗闇に包まれるパニックエピソードは有名です。しかしその後、地上へ追放されたスサノオがヤマタノオロチを退治して英雄へと成長していくプロセスなど、立体的なキャラクター造形こそが古事記の真骨頂と言えます。
難解な漢字の羅列では頭に入りにくいこうした感情の機微も、表情や演出が加わった漫画であれば、「古事記のあらすじが簡単に頭へ入ってくる」という読者が後を絶ちません。