「たかが砂に埋まっただけで、なぜ脱出できないのか」と疑問を抱く方もいるかもしれません。しかし、砂浜の落とし穴には人体を瞬時に死に至らしめる恐ろしい窒息のメカニズムが潜んでいます。
砂は非常に重い物質です。乾燥した砂でも1立方メートルあたり約1.4〜1.6トン、海水を含んで湿った砂であれば約1.8〜2トン近くの重量に達します。深さ2メートルの穴に転落して砂崩れが起きると、成人男性の体重の数十倍に匹敵する土砂が一瞬で身体にのしかかります。
人間が呼吸をする際、胸郭(肋骨や胸の筋肉)を広げて肺に空気を取り込みます。しかし、胸の上に数百キロの砂が圧迫してくると、息を吐くことはできても、再び胸を広げて息を吸い込むことが物理的に不可能になります。これを「外傷性窒息(圧迫死)」と呼びます。
さらに、呼吸をしようともがくほど気道や口、鼻腔内に細かな砂粒子が吸い込まれ、気道閉塞を引き起こします。胸部を完全に砂で固められた人間は、首から上だけが外に出ていたとしても自力呼吸を維持できず、わずか数分間で意識を失い心停止に至るのです。これが「落とし穴から自力で助からない」科学的な理由です。